
3ヶ月ほどの期間でひとつのテーマを学び、友人と共有する勉強会をはじめました。僕は興味関心があれこれ移ってしまう質なので、気になる分野や概念が増えていく一方。
ひたすらにつまみ食いするのも面白いですが、もう少し腰を据えたつまみ食いをしてみたら、味わいも変わるのでは…とはじめた勉強会です。
初回に僕が選んだものは「全体主義」。勉強して考えたことを、少しずつ覚え書きとして記していこうと思います。
(ちなみに、友人が選んだのは「身体や精神における環世界」。いろいろ聞けるのが楽しみ)
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全体主義。ネットに打ち込むと、一番上にはこう記されている。
全体の利益を第一とし、個人の価値は全体に奉仕する点でだけ認める(政治上の)主義。
この短い言葉のなかにも、心にひっかかる棘が含まれている。個人の価値は全体に奉仕する点で“だけ”認める。素直に怖いな、と思う。
その一方で、この言葉に重なり得るものが心になにもないのか…と問われると、それは嘘だった。
組織にいるとき、チームにいるとき、社会にいるとき。全体が指すものは違えど、「全体になにかを還元していないと、そこに居てはいけない」という圧を感じたことも、その圧を発してしまったこともある。
その感覚には、主義と呼べるほどの輪郭はない。けれど、欠片はあちらこちらに漂っている。そして、その欠片は大きくなっていっているのではないか、と思う自分がいる。
SNSで垣間見る分断や誹謗中傷。漂白されすぎてしまう言動。互いに監視しているような感覚。どことなく、「すべてを同にして、全体を損なわないように」という方向性を感じてしまう。
怖い。なにかの色に無意識に染まっていくことが。その流れに自分が加担してしまう、という可能性が。
とろ火の他の文章でも書いているよう、僕は「なぜここに在るんだろう」という問いを抱えている。それは個があってはじめて成立する問い。
個は、大きな流れのなかのひとつに過ぎない。そこに意味なんてない。
けれど、『「かなしみ」の哲学』(著:竹内整一)という本で引かれていた志賀直哉の文章を思い出す。
人間が出来て、何千万年になるか知らないが、その間に数えきれない人間が生まれ、生き、死んで行った。私はその一人として生まれ、今生きているのだが、例えていえば、悠々流れるナイルの水の一滴のようなもので、その一滴は後にも前にもこの私だけで、何万年遡っても私はいず、何万年経っても再び生まれては来ないのだ。しかもなおその私は依然として大河の一滴に過ぎない。それで差し支えないのだ。
志賀直哉「ナイルの水の一滴」より
『「かなしみ」の哲学』p127参照
僕はきっと、この一滴を見つめていたいんだと思う。それはかけがえのない生、という言葉で終わるのではなく、全体に吸い込まれるただの一滴である、という儚さも抱き合わせた一滴。
そのなかで、全体主義と呼ばれるものは、この一滴を見ようとしない思想なのではないか。川を成り立たせる部品のように扱う思想なのではないか。
似た思想で、ファシズムがある。一国一党の政治状態を指し、世界大戦時の日本もそうだった。
戦時中を描いた小説を読むたびに、心が散り散りになる。
いま、そんな思想の欠片を感じてしまっている。でも、僕が考えていることは、もしかしたらズレているのかもしれない。
だからこそ、全体主義についてもっと知りたいと思った。
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本や論文に触れて勉強していこうと考えていますが、かなり広い概念なので、なにを読んでいこうかと頭を悩ませています。「これよかったよ!」などの情報があれば、ぜひ教えてください。
既に本棚にあるものや、これは読みたいな…と思っているのは下記の本たち。
『自由からの逃走』エーリッヒ・フロム
『全体主義の起源』ハンナ・アーレント(100分de名著から入ろうかな…)
『悪の凡庸さ』田野大輔、小野寺拓也
『ファシズムの教科書』田野大輔
『普通の奴らは皆殺し』アンジェラ・ネイグル
『歓待と戦争の教育学: 国民教育と世界市民の形成』矢野智司
『普通の人びと: ホロコーストと第101警察予備大隊』クリストファー・R・ブラウニング
『「暮し」のファシズム ――戦争は「新しい生活様式」の顔をしてやってきた』大塚英志
3ヶ月で読めるのか…というのは置いておいて、いろいろな情報を知れたら嬉しいです。論調のなかにも、流れは複数あるのだろうか。
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この記事のタイトル、「群れが大きく激しく動く その一瞬前にも 自分を保っているために」は、梨木香歩さんの小説『僕は、そして僕たちはどう生きるか』のはじめに記されている言葉です。
これは、自分は一滴であることを忘れない姿勢なんだと思います。でも、群れのなかにいる自分も忘れていない。
作品を読み終えたあと、重みを変えるこの言葉。全体主義の勉強で近づきたいものが詰まっている。
群れが大きく激しく動く、その一瞬前にも、自分を保っているために。

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