
偶然、「とろ火」だったり、最近考えていることだったりを人に聞いてもらう機会がつづいた。こういうとき、どれだけ言葉を探して差し出したとしても、自分の真ん中には触れられない感覚がある。もどかしい。
たとえば、短歌について聞いてもらった。なぜつくりはじめたのか、なにを感じているのか。それらを事後的に振り返って語ってみることはできるけれど、その言葉たちはいまの身体には即していない。
なにかを語るときは、いつだってそうだ。語ろうとするとき、そのなにかは自分にとって客体へと下がっていってしまう。自分にべったり張り付いていたはずのものを、引っ剥がすことで、ようやく言葉というラベルを貼り付けられる。
「頭のなかのモヤモヤは、ノートに書き出して可視化するといい」という話がある。目に見える形にすることで、把握可能なものに、つまりはコントロール可能なものになる。僕もよくやっていた。書きなぐることで整理されたように感じ、状況はなにも変わっていないのにどこか軽くなる。
可視化する、観察可能なものにする。それは、自分との距離を生むということ。取り扱えるものとしてみなす、ということ。とても力強い行為。
その一方で、客体になりさがったなにかは、もう自分の一部ではないのだとも思う。真ん中にあるものを語ろうとする。真ん中から引っ剥がす。それを語るとき、すでに新しい真ん中が生成されている。客体化されたものは、どれだけ上手に語ったとしても、過去に真ん中だったものにすぎない。
逆に言うと、書く/語ることで、真ん中は常に変化していく、とも捉えられる。ここに、書く/語る、つまりは表現することの意味があるのではないか。
そう思うと、僕がはなしを聞いてもらうなかで自分へともどかしさを感じたのは、変化の最中にいたから、なのかもしれない。
オープンダイアローグを論じた書籍に、「対話をしてなにかが得られる、のではなく、対話しつづけていることが大事。対話がつづいている限り大丈夫」のようなことが書いてあった。
表現したものではなく、表現しているということ自体に宿る意味。
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ここまで書いて、また違うことを思い出す。このあいだ、赤坂真理さんの『安全に狂う方法 アディクションから掴みとったこと』を読んだ。アディクションは「依存症」と同義だとされることが多いが、本書では「なにかに固着すること」と捉えている。
たとえばお酒。お酒に固着することは、それ自体に強い快があるというより、お酒によって現在の苦しみを忘れることができ、なんとか生き延びていける、という側面が色濃い。だからこそ、お酒を飲むという症状だけを抑えても、苦しみはどうにもなっておらず、別のものへと救いを求めていく。助けてくれ、いますぐに、と。
固着しているとき、それに囚われることで自我がなくなる。だからこそ、苦しみがいなくなる。
本書のなかで、パフォーマンスアートをしている方の言葉があった。彼は、「自分の中から自分ではないものが出てくる」と言っていた。
パフォーマンスアートをするなかで自我が落ちて、器になる。ここには、害や負担のない形での救いがある。
そして面白いのは、その救いを求めてやったわけではなく、パフォーマンスアートをしてみたら、偶然そこに生まれていたということ。
表現されたものではなく、表現をしていること自体に宿る意味。
前段で僕が触れた「書く/語る」などは、言及されたパフォーマンスアートのように自我が落ちるほどの表現ではない。あくまでも、単発では。けれど、つづけていくことで、徐々に徐々に器へと変化していくのではないか。もしくは、違う形の「書く/語る」があるのではないか。
たとえば、語ること。僕はもどかしさを感じながら語っていた。そこには、自我がある。どうしようもないくらい、自我が滲んでいる。だからこそ、語った言葉といまの身体とのズレがもどかしかった。
けれど、そのもどかしさを抱えながらも語りつづけてみる。それは、たえまない変化に身を浸すこと、とも言える。あるいは、理路整然と伝えようと真ん中から引っ剥がすことを放棄して、真ん中そのものを差し出してみようと語ってみる。そのとき、言葉はめちゃくちゃになるのだろうが、きっと身体とのズレはほとんどない。
思えば、短歌をつくるなかで感じていることはこれに近い。支離滅裂な言い回しでもいいから書いてみることで、向こうから、もしくは内側から、思ってもみなかった単語がやってくる感覚。まさに自我が落ちている。あのとき、なにかが回復している。
とろ火の活動で僕自身が味わいたい、他の人にも届けたいのは、こういった回復の機会なのだと思う…と書いたことで、これもまた変化していくのだろうけれど、書きつづける/語りつづけることで、流れに身を浸していこう。

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